大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成元年(ワ)1103号 判決 1991年2月12日

原告

佐藤光春

外一名

右両名訴訟代理人弁護士

叶幸夫

佐藤恭一

水澤恒男

林正紀

被告

東京都

右代表者知事

鈴木俊一

右指定代理人

中村次良

渡辺邦彦

被告

渡辺茂雄

右訴訟代理人弁護士

羽倉佐知子

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは、各自、原告らに対し、各金一五〇万円ずつ及びこれに対する被告東京都は平成元年二月二六日から、被告渡辺茂雄は同月二五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告ら

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(当事者)

(一)  原告らは夫婦であり、家庭で養育することが望ましい児童に、より個別的な処遇を与えるため、期間を定めて里親に委託し、専門性を持った養護施設等の施設との協働の下で養育することを目的として設けられた東京都養育家庭制度における養育家庭として、右制度における東京都児童相談センター(児童相談所)の所長から、昭和五六年三月二八日付けの措置通知書をもって、訴外野口美香(昭和四六年七月一日生れ。以下単に「美香」という。)の養育の委託を受け、その後昭和六一年六月二三日の同所長による措置変更処分(美香の委託先を原告らから後記調布学園へ変更するもの。以下「本件措置変更処分」という。)が発せられるまでの約五年間、美香を養育してきた者である。

(二)  訴外小川卓郎は本件措置変更処分当時の東京都児童相談センターの児童福祉司、訴外上出弘之は同センターの所長であり、また、被告渡辺茂雄は、右制度における養育家庭センターに指定された調布学園養育家庭センター(以下「調布学園」という。)の園長であって、いずれも美香の原告らに対する養育委託に関与してきた者である。

2(被告渡辺茂雄らの不法行為)

(一)  被告渡辺茂雄(以下「被告渡辺園長」という。)、訴外小川卓郎(以下「小川福祉司」という。)及び訴外上出弘之(以下「上出所長」という。)らは、東京都養育家庭制度の運営に携わり、円満な里親里子関係の指導監督的立場にあったのであるから、原告らと美香との里親里子関係に問題が生じたとしても、その問題点について慎重に調査し、問題改善のため可能な限り指導助言を行い、里子である美香から家庭を奪う結果になる本件措置変更処分を行うに当たっては、児童福祉の見地からも慎重を期すべき注意義務があった。

(二)  しかるに、被告渡辺園長らは、右指導助言すべき義務を怠ったばかりか、共謀の上、昭和六一年三月三一日ころ、原告ら宅に落ち着いていた美香を一週間だけであるとだまして調布学園に引き取ったままその後原告らの下に返そうとせず、更に、被告渡辺園長は、原告らと美香を引き離す目的をもって、不十分な調査に基づき東京都児童相談センターに対し原告らが美香の里親として不適格である旨の虚偽の報告を行い、また、小川福祉司及び上出所長は、右虚偽の報告を軽信して慎重に調査することのないまま、原告らが美香の里親として不適格であるとの誤った判断に基づき本件措置変更処分を行い、その結果、原告らが美香の里親として有していた監護権及び著しい不行跡がない限り美香の養育を継続できるとの信義則上の期待権を違法に侵害した。

(三)  本件措置変更処分は、原告らに対する不利益処分であるにもかかわらず、理由を付記せず、行政不服申立ての機会を奪ったものであり、この点においても違法なものである。

3(原告らの損害)

原告らは、被告渡辺園長らの右不法行為により、五年もの間親子関係に勝るとも劣らない愛情ではぐくまれた美香との里親里子関係を一方的に断ち切られ、多大な精神的苦痛を被ったものであり、右苦痛に対する慰謝料は、原告ら各自について各金一五〇万円(合計金三〇〇万円)を下らない。

4(被告東京都の責任)

小川福祉司及び上出所長は、いずれも被告東京都の公権力の行使に当たる公務員であり、前記3の原告らに対する不法行為は、右両名がその職務を行うに当たってなしたものであるから、被告東京都は、右不法行為によって原告らに生じた損害を賠償すべき義務がある。

よって、原告らは、被告東京都に対しては国家賠償法一条一項に基づき、被告渡辺園長に対しては民法七〇九条に基づき、原告ら各自に対し右慰謝料各金一五〇万円(合計金三〇〇万円)及びこれに対する被告東京都については不法行為の後である平成元年二月二六日から、被告渡辺園長については同じく同月二五日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1の(一)、(二)の各事実は認める。

2  請求原因2のうち、被告渡辺園長、小川福祉司及び上出所長らが、東京都養育家庭制度の運営に携わり、原告らと美香との里親里子関係の問題点について指導助言する立場にあったこと、昭和六一年三月三一日ころ以降美香を調布学園に預かったこと及び原告らに対して本件措置変更処分がなされたことは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

3  請求原因3の主張は争う。

4(被告東京都)

請求原因4の主張は争う。

三  被告東京都の主張

1  被告東京都は、原告らに対し、里子養育についての研修や専門家による養育相談の機会を適宜提供しており、また、小川福祉司らは、原告らに対し、美香の養育について個別的に十分な指導助言を行うとともに、原告ら及び美香からの十分な事情聴取、美香の心理判定調査等を行い、必要の都度、上出所長への報告及び同人からの指示も受けていたのであるから、原告らの指導助言義務違反及び調査義務違反の主張は失当である。

2  東京都養育家庭制度は、児童福祉法の理念に基づき児童福祉に関する諸施策の一環として被告東京都が実施しているものであり、児童福祉の観点から美香の保護育成について責任を負う被告東京都としては、美香の意思を尊重し、総合的な検討に基づき、美香にとって最も適切な措置と判断して本件措置変更処分を行ったのであって、右処分には何ら違法・不当な点はない。

3  原告らは、美香の里親として監護権及び著しい不行跡がない限り養育を継続できるとの信義則上の期待権を有していた旨主張するが、児童福祉法、東京都養育家庭制度実施要綱をはじめ、現行諸法令に右のような里親の権利を規定したものはない上、仮に養育の実績に基づき里親に何らかの利益が認められる場合があるとしても、それは、里親里子関係が良好な状態を維持している場合であり、本件のように里親里子関係が不調になっている場合にはそれを維持することは里子の福祉にとって好ましくなく、右里親の利益は法的保護に値するとはいえない。

4  本件措置変更処分に至るまでには、原告らからの十分な事情聴取を行っているばかりか、右処分の理由も口頭で再三説明しており、適正手続の要請は満たされているものというべきである。

四  被告渡辺園長の主張

1  原告らと美香との里親里子関係は、調布学園の指導助言にもかかわらず調整がつかず、かえって、美香が心身ともに不安定な状況に陥っていることが認められたことから、被告渡辺園長は美香の意思を尊重しその福祉のために、原告らから調布学園への委託先の変更を妥当とする意見を東京都児童相談センターへ具申したものである。

2  本件措置変更処分は、東京都知事の権限であって、被告渡辺には何らの権限もなく、右意見も右処分を決定するに当たっての参考意見とされるに過ぎないものであるから、右処分の違法を理由とする原告らの被告渡辺園長に対する請求は理由がない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1の(一)、(二)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二請求原因2について

1  東京都養育家庭制度について

請求原因2のうち、被告渡辺園長、小川福祉司及び上出所長らが東京都養育家庭制度の運営に携わり、原告らと美香との里親里子関係の問題点について指導助言する立場にあったこと、昭和六一年三月三一日ころ以降美香を調布学園に預かったこと、及び原告らに対して本件措置変更処分がなされたことは、いずれも当事者間に争いがない。

前示一及び右の争いがない事実に<証拠>及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負うが、児童福祉法は、保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童のために、里親制度を設けている(二六条一項一号、二七条一項三号)。右の里親に関する事務は、都道府県(知事)の権限であるが、この里親への委託権限の全部又は一部は、児童相談所長に委任することができることとされている(三二条一項)。

(二)  東京都においては、児童福祉法の里親制度を整備したものとして東京都養育家庭制度を設けているが、この制度においては、児童福祉法の児童相談所である「東京都児童相談センター」(このセンターが、児童の委託を行う。)、同法の里親である「養育家庭」のほか、養育家庭センターが存し、これらが、有機的に連携して、児童の育成に当たることとされている。この「養育家庭センター」は、一定の要件を備えた施設(右の制度に理解と熱意を有する施設で、この制度担当の専任職員を二人以上置き、里親に対する相談指導のための施設を備えているもの)について知事が指定するものとされ、その権限は、①里親希望者からの相談及び申込みに応じ、児童相談所長に対し、里親認定の推薦をし、②知事が里親と認定した者についての記録を作成するほか、知事が定めた地域においては、③児童相談所長に対し、里子の委託の推薦をし、④里親に対し、養育の指導と助言をし、⑤里親が児童を養育することが適当でないと判断した場合、児童相談所長に対し、児童の施設への復帰等の適切な措置を採るよう意見を述べ、⑥里親が、一時的に児童を養育することができなくなった場合、児童を保護するなど、知事又は児童相談所長がなすべき権限の一部の委託を受け、これらを補佐し、里親里子制度の実施・運営の中核的役割を果すこととされている。

(三)  原告らは、右の東京都養育家庭制度における里親(養育家庭)になった者として、被告渡辺園長は、右の制度における養育家庭センターである調布学園の園長として、小川福祉司は、東京都児童相談センター(児童相談所)に属する児童福祉司として、上出所長は、同センターの所長として、原告らと美香との間における里親里子関係に関与してきた者である。

2  被告渡辺園長の責任について

原告らの被告渡辺園長に対する請求は、同被告が、東京都養育家庭制度における養育家庭センターである調布学園の園長として、同制度に基づいてした行為の違法を理由とするものである。

ところで、国家賠償法一条一項にいう「公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて」した行為については、国又は公共団体が賠償の責に任ずるのであって、公務員個人がその責任を負うものではなく(最高裁昭和三〇年四月一九日第三小法廷判決・民集九巻五号五三四頁、最高裁昭和五三年一〇月二〇日第二小法廷判決・民集三二巻七号一三六七頁)、また、右法条にいう「公務員」には、公務員としての身分資格を有する者に限らず、実質的に公務を執行する者、したがって、国又は公共団体のため公権力を行使する権限を委託され、これを補佐する者をも含むと解するのが相当である。

そして、東京都養育家庭制度の実施・運営が、児童福祉法に定める里親里子制度をより円滑に実施・運営するために設けられたもので、被告渡辺園長が、被告東京都から右制度の目的達成のために必要な事業の委託を受け、これを補佐する調布学園の被用者として、右事業の執行に携わった職員であることは、前示1のとおりであるから、同被告は、右法条にいう「公権力の行使に当る公務員」であるということができるところ、原告らの被告渡辺園長に対する請求は、右事業の執行上の違法行為を請求理由とするものであるから、被告渡辺園長は原告らに対して個人としての責任を負わないものというべきである。

したがって、原告らの被告渡辺園長に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

3 被告東京都の責任について

(一) 原告らは、被告渡辺園長らによる指導助言義務違反、調査義務違反及び本件措置変更処分の違法により、原告らの里親としての権利を侵害されたと主張しているところ、里親が、委託に基づき里子となる児童を養育監護することは、里親である養育家庭の果たすべき義務であると同時に里親である地位を享有できる利益であり、かかる里親側の利益もまた法的保護に値するものというべきであるから、適切な指導助言がなされなかったこと又は正当な理由がなく委託措置が取消し又は変更されたこと等によって里親里子の関係が解消させられた場合には、里親である養育家庭に対する関係においても不法行為責任が生じ得るものと解される。

しかしながら、養育家庭に対する指導助言、児童の委託に関する措置等の事柄は、原則として、児童相談センターの所長、児童福祉司、養育家庭センターの職員らの児童育成に関する専門的判断に基づく合理的裁量に委ねられているというべきであるから、右の指導助言、措置等が国家賠償法一条一項の適用上違法の評価を受けるのは、右の指導助言、措置等が、里子である児童の福祉という観点からも著しく不合理であって、その委ねられた裁量判断の範囲を逸脱したと認められる場合に限られるものと解するのが相当である。

(二) そして、前示一の争いのない事実に、<証拠>並びに弁論の全趣旨を総合すれば、つぎの(1)ないし(8)の事実が認められる。

(1) 原告らは、東京都児童相談センター所長の委託に基づき、昭和五六年三月二八日から美香(昭和四六年七月一日生れ)の養育を開始した。その後原告らと美香との里親里子関係はほぼ順調に経過し、右委託は昭和五八年三月及び昭和六〇年三月の二度にわたり更新された。

(2) しかしながら、美香が中学校に入学後の昭和六〇年ころから、原告らとの感情的対立や生活態度の乱れが見られるようになってきた。そこで、調布学園の指導員らは、原告ら及び美香としばしば面接を行って状況の把握や指導助言に努める一方、昭和六一年三月一二日ころ、被告渡辺園長が、東京都児童相談センターに小川福祉司を訪れ、原告らと美香との里親里子関係が不調をきたしていることを報告し、原告ら及び美香との面接、指導助言及び今後の処遇の検討等を依頼した。

(3) 右依頼を受けて、小川福祉司は、同月二七日ころに調布学園の指導員とともに原告ら宅を訪問した。その際、原告らは、小川福祉司に対し、美香が原告らの養育方針に反発し里親里子関係が不調をきたしている旨説明し、美香も、原告らの下にはもういたくないとの意思を示した。そこで、小川福祉司は、美香に対しては本当の気持ちを手紙にしたためるよう指示する一方、原告ら及び美香の了解の下に、右関係の修復のため、差し当たり一週間ほど美香を調布学園へ預けるのが相当であると判断し、その旨上出所長にも報告した。

(4) 美香は、同月三一日ころ、原告らの了解の下に、原告ら宅から調布学園へ移った。小川福祉司は、同年四月一日ころに同学園の指導員と相談の上、東京都児童相談センターにおいて美香と面接することを決める一方、同月三日ころ、同センターを訪れた原告佐藤敏子に対し、近日中に美香と面接し、美香にとって最善の方法を採っていきたいと説明した。

(5) 小川福祉司は、同月四日ころ、調布学園の指導員らとともに、東京都児童相談センターを訪れた美香と面接し、約束の手紙の交付も受けた。美香は、右手紙において、原告らの下には戻りたくないとの意思を強く示し、また、面接の際にも、小川福祉司の説得にもかかわらず、右の意思を変えようとしなかった。そこで、小川福祉司は、右指導員らとも相談の上、原告ら宅を出たいという美香の意思が固いことから、当分の間調布学園での生活を継続するのが相当であると判断し、その旨上出所長に報告した。また、同日、被告渡辺園長は、小川福祉司に連絡し、小川福祉司と同様の意見を述べ、両者は、美香の原告らに対する委託措置の問題について今後東京都児童相談センターと協議していくことを確認した。

(6) その後も、小川福祉司は、原告らに対し、面接や電話等により、美香が調布学園での生活を継続している事情の説明、今後の対応についての助言等を行う一方、調布学園の指導員からの報告、専門家による心理判定、中学校の担任教師との面接等により、美香の心境の把握に努めたところ、美香は、心理的に不安定な状態にあり、依然として原告らの下に戻る意思はないことが明らかになった。

(7) 以上のような経過を踏まえて、小川福祉司は、被告渡辺園長とも協議の上、美香の意思を尊重して、委託先を原告らから調布学園へ変更することが適当であると判断し、同年六月三日ころに、同被告及び調布学園の指導員らとともに原告らを訪問し、美香について、調布学園に預かってからの経過、前記手紙の内容、心理判定の結果等を総合して考えると、原告らの下に戻りたくないとの美香の意思は固く、これ以上原告らへの委託を続けることは美香の福祉に適さないと判断されるので、右委託を解消し、調布学園へ委託先を変更したい旨を伝えた。これに対し、原告らは強く抗議し、同月二〇日ころの美香の修学旅行の前後までの期間を美香との関係改善のための期間としてほしい旨要望したため、小川福祉司はこれを了承した。

(8) しかしながら、その後も美香と原告らとの関係改善の兆しは認められなかった。同月一八日に東京都児童相談センターにおいて、所長、児童福祉司、心理判定員等により構成される処遇会議が開かれ、右会議において、美香が原告らを拒否している以上、調布学園への委託の変更もやむを得ないとの意見が多数であった。上出所長は、右の会議の結果を受けて、同月二三日付けで本件措置変更処分をした。

以上のとおり認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(三) 右(二)の認定事実から判断すれば、本件措置変更処分に至るまでの小川福祉司や調布学園の職員らの対応及び本件措置変更処分は、いずれも、美香の意思を正確に把握することに努めるとともに、これを尊重したものであり、同人の年令を考慮すると、美香の福祉に副うべき相当の根拠に基づくものであって、少なくとも、児童福祉の事務に従事する前記職員に委ねられた専門的裁量判断の範囲を逸脱したものとはいえない。したがって、指導助言義務ないし調査義務の懈怠又は本件措置変更処分に原告主張の違法があるとはいえない。

もっとも、<証拠>並びに弁論の全趣旨によれば、原告らは、実の子供と同様の愛情をもって美香を養育してきたものであり、美香に対するいささか適切さを欠く言動は右愛情ゆえのものともいい得ること、美香との関係が不調をきたすようになってからは、しばしば調布学園の指導員らや小川福祉司に助言を求め、また、自ら調布学園へ赴いて美香との面接に努めるなど、美香との関係改善に努力してきたこと、美香が中学校に入学する前後までは原告らとの里親里子関係はほぼ順調に経過してきたこと、美香も原告らから約五年間にわたって養育を受けたことについては感謝の気持ちを有していること等が認められるが、右のような諸事情を考慮しても、前示(二)の(1)ないし(8)の経緯に鑑みると、いまだ前示の判断を左右するものではない。

(四)  また、原告らは、本件措置変更処分が理由付記を欠いた点においても違法である旨主張するところ、<証拠>によれば、原告らに対する右処分の通知書には、措置変更の理由としては「その他」と記載されているに過ぎないことが認められる。

しかしながら、行政処分に法令上理由を付すべき旨の定めのない場合においては、処分について理由を付するか否か、付するとした場合のその程度は、当該処分権者の判断に委ねられていると解されるから、本件措置変更処分の理由が右の程度であることをもって、右処分手続上違法たらしめるものではない。のみならず、前示(二)の認定事実によれば、小川福祉司らは、右処分に至るまでに、適宜原告らと面接して事情を聴取し、措置変更の理由も口頭で説明しているのであるから、原告ら主張の手続的要請は実質上満たされているものというべきである。

したがって、原告らの右違法の主張も理由がない。

そして、他に、本件措置変更処分の違法性又は右処分に至るまでの原告らに対する不法行為の存在を認めるに足りる証拠はない。

(五)  したがって、原告らの被告東京都に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

三よって、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官筧康生 裁判官土居葉子 裁判官寺本昌広)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例